CSR

電極・電解槽(セル)と現代社会

~電気化学できれいな地球環境づくりに貢献~

 工業電解技術の変遷において、従来プロセスからの転換あるいは新規電解プロセスの実現のために、構成部材の改良・開発に多大な努力が払われてきた。環境適合性・エネルギー低減といった社会的要求に応えるために、新プロセスと新材料の開発が相乗的に繰り返されてきたとも云える。ときには新規な電極材料がその中核を担う事例もあり、その1つがDSE®電極であった。


省エネ・環境技術:


 ソーダ工業は、塩を原料に、幅広い産業分野の原料・副原料、反応剤などに使われる化学薬品を製造する、基礎素材産業の一つである。わが国では塩水を電気分解して、か性ソーダ、塩素、水素を製造する「電解ソーダ工業」が中心である。国内ソーダ生産は100 %イオン交換膜法となり、1970年代の水銀法時代ではNaOH 1トンあたり約3,500kWh であった電力原単位が、現在では2,400kWh 以下まで低減された。国内生産電力の削減量は44億kWh/年であり、これは、環境への貢献として国土森林面積の3%のCO2削減量に相当する。そのうち、従来の黒鉛電極からDSE®電極への転換による電力削減量は14億kWh/年であり、国土森林面積の1%(神奈川県相当)のCO2削減量に相当する。基幹産業において驚異的な環境負荷の低減が、技術革新により達成されたのである。高電流密度化でのさらなる電力原単位の向上を目指して、現在でも水素発生電極の改良開発が、あるいは次世代革新的技術である酸素ガス拡散電極型セルの研究開発が進んでいる。

 普段目にする電気・電子機器の中には、プリント配線板が組み込まれている。これは銅箔と樹脂フィルムを積層した銅張積層板からなり、不要な銅箔部分を除去して導体回路を形成させている。銅はその回路用導体として機能する。銅箔製造の1つである電解銅箔工業では、対極として酸素発生用電極が用いられる。従来の鉛系電極は、消耗に伴う電解液汚染、製品汚染などの欠点があり、深刻な環境汚染への懸念があった。DSE®電極への転換により、環境改善、電力原単位の低減に貢献している。
亜鉛鋼板めっき、アルミニウム電解コンデンサー処理、金属電解採取、PCBめっきなどの他の電解プロセスでも同様の効果を創出している。

 一方、電子部品、半導体、液晶などの製造工程においては、微細加工を可能にする洗浄プロセスにおいて、環境負荷の小さい電解装置が重要な役割を担っている。電解により製造されるオゾンガス・水、水素ガス・水、NF3ガスなどが、高純度な薬品として、既存の高濃度洗浄液の代替を実現しているのである。

 このほかにも、電解技術は我々の見えないところで、例えば腐食防蝕、水処理(オゾン浄水処理、海水処理、電解浮上分離など)、再資源化プロセスでの基幹技術として、大いに活用されている。

安定エネルギー供給技術:


 二酸化炭素の排出量削減は、地球温暖化抑制の中心的課題となっている。化石エネルギーを他のエネルギーに転換する国際的指針を受けて、また、原子力エネルギーへの不安が払拭されていない現状において、電力の自由化・多様化、エネルギーミックスを旗印に、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの導入が進められてきた。
この自然エネルギーは天候による変動が大きいため、変動を緩和する1つの手段として大規模二次電池が利用されているが、地球的規模での天候の局在化や季節変動に対応するには容量不足である。そもそも電力の長距離送電は電力ロスが無視できない。そこで、電気エネルギーを安定な化学物質(エネルギーキャリア)に変換し、貯蔵・輸送する技術の開発が研究されている。水素はキャリアとしての第一候補であり、燃料電池車や燃料電池コージェネレーションシステムなどがその先駆けといえる。
エネルギーの安定供給を確実に行うことのできる、水から水素を製造するためのMW級レベルの大規模な水電解技術(高性能な電極とセルの創製)は、究極の二酸化炭素フリーの水素社会の実現に向けて、重要不可避な開発テーマに位置づけられている。

生活環境関連技術:


 日常の健康的・衛生的生活をサポートする水として、アルカリイオン水、次亜塩素酸水、オゾン水、水素水など、主に電解により生成されるさまざまな機能水が、くらしの中で利用されつつある。
 アルカリイオン水は胃腸病状改善の効果を有することが古くから知られており、2005年に家庭用電解水生成器は管理医療機器として認可されている。次亜塩素酸を含む電解水は2002年に指定食品添加物として認可され、さまざまな分野での消毒装置への応用が進んでいる。最近では農業特定資材として承認されている。オゾンも既存食品添加物として古くから利用され、ガスや液体のかたちで食品製造、衛生環境、医療分野などで貢献している。最近では水素ガスあるいは水素水の生体への効果が見出され、これを利用した治療技術が先端的に研究されている。 電解プロセスの特徴は、原料と電力があれば、いつでもすぐに有効な物質を生成、使用でき、保存困難な物質の貯蔵の手間がないことである。電解装置は安全であるとの認識がくらしの中に浸透しつつある。しかし、身近なツールである故に、それぞれの機能水の正しい効果・効能を理解し、そのための用法・用量を担保する電解装置を開発する必要がある。

 電極並びに電解セルからなる電解装置は、現代社会における工業・産業、くらしに少なからず貢献している。安全で経済性に優れた電解製品を提供することを継続する一方で、電極を含めた新材料と新プロセスが融合して、優れた構造設計と運転技術を基に、画期的な電解プロセスが実現されることを期待したい。

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